生前対策としての信託・贈与|争族・税負担を避ける賢い選択肢
人生100年時代を迎えた今、「相続の準備=亡くなった後の話」ではなく、生前の対策がカギとなっています。とくに、生前贈与や家族信託は、争族(あらそうぞく)リスクを回避し、税負担を抑えるための有効な手段です。
この記事では、生前贈与と信託の使い分け、設計上の注意点、税務リスクの回避策までをわかりやすく解説します。
生前贈与とは?その種類とメリット・デメリット
生前贈与とは、相続が発生する前に、自分の意思で財産を渡す行為のことです。
主な種類
種類 | 特徴 |
---|---|
暦年贈与 | 年間110万円まで非課税。少しずつ財産を移せる。 |
相続時精算課税制度 | 2,500万円まで贈与時は非課税。相続時にまとめて精算。 |
教育資金一括贈与 | 1,500万円まで(30歳まで)。孫の教育費用として活用可能。 |
結婚・子育て資金贈与 | 結婚や出産育児に関する費用。上限1,000万円まで非課税(終了間近) |
メリット
- 相続財産を減らし、相続税を軽減できる
- 自分の意志で贈与先・タイミングを決められる
- 争族リスクの回避につながる
デメリット
- 贈与税の対象となる(非課税枠を超えると課税)
- 一度贈与すると取り戻せない
- 税務署から「名義預金」と判断される可能性もある(証拠書類の保存が重要)
家族信託の設計時の注意点
家族信託は、生前贈与と異なり、「名義は移しても、利益を受け取る人を変えない」柔軟な財産管理ツールです。
注意すべきポイント
- 委託者・受託者・受益者の明確化
曖昧な役割設定はトラブルの元。契約書に明確に記載しましょう。 - 信託期間や終了時の財産帰属先を設定
信託が終わった時に誰に財産が渡るかを明示する。 - 信託内容の実行可能性のチェック
特に不動産の運用や売却を想定している場合は、名義変更や登記手続きの実行性を確認。 - 家族全体への説明と同意
「知らなかった」ということで争いになる前に、家族全員に内容を共有するのが理想。
信託契約書の基本構成
家族信託契約書には、以下のような項目が含まれます。
項目 | 内容例 |
---|---|
契約当事者 | 委託者・受託者・受益者の氏名、住所 |
信託財産の内容 | 不動産、預貯金、有価証券など |
信託の目的 | 認知症対策、相続対策、事業承継など |
受託者の権限・義務 | 財産管理、収益分配、帳簿作成など |
信託期間・終了条件 | 終身、一定年数、特定の出来事など |
帰属権利者の指定 | 信託終了時の財産の帰属先 |
受託者の変更・補充条件 | 受託者が辞任・死亡した場合の後任者 |
紛争時の解決方法 | 家庭裁判所の管轄、第三者の調停など |
税務上の注意点(贈与税・所得税)
家族信託や贈与は税務面での誤解・ミスが多く、事前の専門家相談が重要です。
贈与税
- 暦年贈与の非課税枠(110万円)を超えた場合は申告が必要
- 親の口座から子の口座への送金でも、贈与契約書がなければ課税される可能性
所得税
- 不動産の賃貸収入がある信託の場合、受益者に所得税がかかる
相続税
- 信託中の財産も、原則として相続税の対象(受益権ベースで評価)
- 信託契約の設計によっては、2次相続での節税も可能